サボテン紹介関連レビュー

100年前のサボテン・多肉植物の本の素晴らしき表現能力

サボテン紹介関連
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先日、あまりに暇で国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されている書物を眺めていたとき、サボテン・多肉植物関係でなかなか面白い本を見つけましたのでご紹介いたします。

これです!

タイトル 仙人掌図説
著者 錦草庵主人
出版 後藤園芸場出版
年月日 大正2年1月17日
定価 35銭
URL https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/909452

大正2年ということは1913年ですから、100年以上前の本ですね。

ちなみに1913年の企業物価指数は0.647ぐらいということらしいので、それを基準に考えた場合、現在の貨幣価値に換算すると、1円=約1080円ぐらい。ということで35銭=378円の本というところでしょうか。


なお、こちらの本を紹介するにあたり、著作権については保存期間が満了しており、国会図書館に許諾を特別取らずに、転載等が可能のようです。

そんで、中身を転載しますと、こんな感じです。

基本的には、サボテン・多肉植物の種類を紹介する本です。「仙人掌図説」とありますが、その仙人掌とはサボテン科の植物ということではなく、ユーフォルビアなども含めた、いわゆる一般の多肉植物を含んでいるようです。

前書きを抜粋してみます(以降、文章をわかりやすく区切り、一部漢字を現代向けに変換しています。ちなみに、私が”読んで”抜粋しているので間違いがあるかもしれないです)。

仙人掌は、全世界幾多の植物中最も奇態變(變=変)形に富み、且つ珍刺妙髯壯芒を特有する肉性的永久宿根觀賞植物にして、其種類の饒多なること、實(實=実)に二千有餘の多きに達し

中には

十數尺の高さに伸長するもの

或は矮生にして寸餘の大さに過ぎざるもの

又た或は紅白黄紫の美毛奇髯を以て武装するもの

無毛滑澤珠玉の如きもの

楕圓狀にして龍頭蛇尾の如き變態のもの

寶樹形にして珊瑚の如き多枝性のもの

獅子形にして嚴石の如き奇觀のもの

變幻百極まりなく、何れも神出鬼没にして、實に壮快烈絶のものゝみ多く加ふるに、品位高尚優逸にして其風致深遠幽雅多趣に涉り、全く天巧の妙致を奪ひ殆んど破天荒の珍種ならざるはなく、殊に最美妙艶絶麗なる奇形の花輪を自己の肉體(體=体)上に直開する等の如き、到底他の花弁盆養品などに比肩し得べからざる世界最高の珍種たり

なかなか読むのは難しいのですが、この文章に、少なくとも私が常に考えているようなサボテンのすべての魅力がこれ以上ないパワー型の表現で詰まっています。素晴らしい。

 

以下、いくつかの種を抜粋してご紹介します。

 

鸞鳳玉(らんぽうぎよく)

球體(體=体)の妙變皮面の奇致 大名工の技術を施すも
到底此の奇態を作爲すべからる珍種なり

「どんなに名高い職人の技術をもってしても、この珍しい見た目をつくることはできないであろう珍品」という感じでしょうかね。いやはや本当にそう思います。

 

玉牡丹(たまぼたん)

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Agnieszka Kwiecień, Nova, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

珍種中の珍にして壮絶快絶の妙致に對し
殆んど形容の詞に苦しましむる天然的破天荒の奇品なり

「珍品中の珍にして壮絶快絶」「この天然的破天荒さを表現する言葉はない!」という感じ。本には写真は載っていないため、玉牡丹を見たことがない人がこの文章を読んで、どんなものを想像するのでしょうかね!

 

老楽(おいらく)

銀光燦として四方を照らし
其妙體云うふべからざる最新出の絶品にして
斯界に多くの人氣をめつゝある珍中の珍品なり

「銀の光が鮮やかに四方を照らし」という表現、最高です。なかなかできないです。今後、私も使っていきたい。

 

金鯱(きんしやち)

其猛威凛烈たるの状は大海に狂ふ眞鯱と雖(いえ)ども
容易に近附く能わざるべく仙人掌中此種にあらざれば此珍なし

「本当の鯱でも近づけない」という表現、もはや、その才能に嫉妬するレベルです。ちなみにここで言う、鯱(しゃち)とは、姿は魚で頭は虎、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持っているという想像上の動物であり、いわゆる水族館にいるパンダみたいなイルカみたいな「シャチ」ではないと思われます。

 

金皇丸(きんこうまる)

全く金皇丸の名に背かざる斬新の珍種として
美麗奇観云ふべからず本種は現代に於ける極細毛黄色種の大王にして
之が右に出ずる良種を発見せず

「右に出る良種を発見せず」という表現がとてもいいです。現在ではかなりの駄物寄りになっていますが、改めて見直さないといけないでしょう。ちなみに、いまは金「皇」丸よりも金「晃」丸という表現が多いと思いますが、金皇丸のほうが高貴な感じがしますね。大王ですしね。

 

猩々丸(しやうじやうまる)

猩々の起立したるが如き妙致を風容せり
(中略)
仙人掌中の最珍として現代至る處 好評嘖々たり

最珍です。最珍。「猩々とはなにか」については以下も参照。

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ちなみに、猩々丸の最珍具合は、伊藤芳夫先生の「サボテン奇談」によれば

明治35年頃、緋の衣をまとったような猩々丸が、小量入ってくると、サボテンにはこんな美しいものがあるのかという風で、引っぱりだこであった。

(中略)

株物の優良品は250円という高価で売れた。

先述のとおり、1円が1080円だとしても270,000円となります。いやはや高価ですね。

 

というわけで、国立国会図書館デジタルコレクション、実に面白いので暇つぶしにでもどうぞ!

 

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