サボテン紹介関連

伝説のサボテン:イスラヤ属「怪人鉄塔」の由来と考察

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サボテン科にはかつて「イスラヤ属(Islaya)」という属がありました。南米はペルーのイスライ州(チリとの国境の近く)付近に自生するサボテンです。

大きさは小さめで、刺座付近のふわふわの綿毛と頂点から咲く黄色っぽい可愛いらしい花が特徴でしょうか。

Eriosyce islayensis From The Cactaceae (1919-1923) by Britton et Rose, Vol. III

 

イスラヤ属には砂王女(Islaya krainziana)摩利支天玉(Islaya maritima)などに代表される十数種類の種があったのですが、昨今の研究により、イスラヤ属はエリオシケ属(Eriosyce)に吸収され、イスラヤ属のそれぞれの種は、そのほとんどがシノニム(異名)であるとされて、ほぼEriosyce islayensis(エリオシケ・伊須羅玉)に統一されました(されてしまいました)。つまり砂王女も摩利支天玉も、伊須羅玉になってしまったわけです。

ちなみに、摩利支天とは仏教を守護する善神のことです。

By KareljOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

 

ちなみに、エリオシケ(Eriosyce)という属名は、その特徴的な子房においてギリシャ語で羊毛を表すerion、イチジクを表すsyceという言葉に由来し「羊毛の果実」という意味をもっています。

By Michael WolfOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

 

ということでここでちょっとまとめてみます。以下の表が、Eriosyce islayensis(伊須羅玉)の全シノニムです。見てわかる通りかなり多くのサボテンが吸収されたことになります。

全シノニム | 学名 和名
Eriosyce islayensis(Accepted scientific Name) 伊須羅玉 / 曛光玉
 Echinocactus islayensis
 Islaya islayensis
 Malacocarpus islayensis
 Neoporteria islayensis
 Parodia islayensis
Eriosyce islayensis subs. grandis グランディス
 Islaya grandis
 Islaya islayensis subs. grandis
 Neoporteria islayensis var. grandis
Eriosyce islayensis subs. omasensis  
 Eriosyce omasensis
 Islaya omasensis
 Neoporteria omasensis
Islaya bicolor 美迦羅丸
 Neoporteria bicolor
Islaya brevicylindrica 怪人鉄塔
 Neoporteria islayensis f. brevicylindrica
Islaya copiapoides 覆面玉 / 小雛丸
 Neoporteria islayensis var. copiapoides
Islaya copiapoides var. chalaensis  
 Islaya chalaensis
Islaya copiapoides var. pseudomollendensis  
Islaya divaricatiflora 薔薇城
 Neoporteria islayensis var. divaricatiflora
Islaya flavida 富良美丸 / 富良美玉
Islaya grandiflorens 花輪王子 / 望爪玉
 Neoporteria islayensis f. grandiflorens
Islaya grandiflorens var. spinosior 群刺丸
 Neoporteria islayensis f. spinosior
Islaya grandiflorens var. tenuispina  
Islaya grandis var. brevispina  
Islaya grandis var. neglecta  
Islaya islayensis var. minor 闇光玉 / 美濃竜 / 竜紋玉
 Islaya minor
 Neoporteria islayensis f. minor
Islaya krainziana 砂王女 / 白綿玉 / 白錦玉
 Neoporteria krainziana
Islaya longicarpa  
Islaya maritima 摩利支天玉
Islaya minuscula  
Islaya molendensis 蒙古玉
 Echinocactus molendensis
 Neoporteria islayensis f. molendensis
Islaya paucispina 芒刺丸 / 眸刺玉
Islaya paucispina var. curvispina  
 Neoporteria lindleyi f. curvispina
Islaya paucispinosa 黒牙竜 / 鷲卵玉
Islaya solitaria  
Islaya unguispina  
Neoporteria lindleyi  
 Echinocactus lindleyi  

 

多くのサボテンが吸収されたということは、多くの魅力的な和名も吸収されたことになります。そのなかでも異彩を放っていたのが「怪人鉄塔(Islaya brevicylindrica)」です。

怪人鉄塔?????

 

「怪人鉄塔」とはなんでしょうか?

「怪人鉄塔」の由来はなんでしょうか?

 

・・・

ということで調べていくと、

 

怪人鉄塔は、日本SF界の祖と呼ばれる明治時代の作家:押川 春浪(おしかわ しゅんろう、1876年3月21日 – 1914年11月16日)が書いた冒険小説のタイトルです。

似たようなタイトルに江戸川乱歩の「鉄塔の怪人」という推理小説もあり、和名「鉄塔怪人」の由来は、この江戸川乱歩のほうではないか?という説もあるようなのですが、私としては、その”文字通り”の押川春浪の方だと思っています。

ちなみに怪人鉄塔が書かれたのは明治42年(100年以上前ですね)で、とりあえず大正7年に発刊された「春浪快著集 第2巻」に収録されております。小説の規模としては約100ページぐらいな感じ。

国会図書館デジタルコレクションより

ちなみに、押川春浪で一番有名な作品は、1900年に発表された「海底軍艦」だそうで、こちらは東宝の特撮映画にもなっているそうです(ドリル戦艦:「轟天号」でおなじみのようです。その後「新海底軍艦」としてアニメにもなったそうな)。

・・・

そんでこの「怪人鉄塔」、著作権が切れていて国会図書館デジタルコレクションで誰でも読むことができます。→ こちら

はてさて、この小説の中にサボテンの話題が出てくるのでしょうか。

 

・・・

 

ということで早速読んでみます。

私が最後に読んだ小説が、たしか「マリア様がみてる」だったと思うので20年以上ぶりです。

 

ということで以下小説の内容です。ネタバレ注意です!

生物学者の主人公(成島春雄)は、飲み屋でオーストラリアに半獣怪人なるものが現れたという噂を聞く。

それは面白い!ということで、オーストラリアに調査に行くことを決意。

オーストラリアに向かう船上で、たまたま超絶美女と知り合う。

美女、船の上でとんでもない大きさの怪鳥にさらわれて行方不明に。

悲しみの中オーストラリア到着。

半獣怪人探し開始。

泊まったホテルで、ホテルの店員が盗賊に襲われる

盗賊を取り押さえ、逃げないように縛り上げて朝まで放置していたところ、朝になったら首無し死体になってる。

ホテルの店員曰く「これは半獣怪人の仕業だ!」

主人公「ええ!?半獣怪人を知っているんですか?そいつはどこにいるんです?」

ホテルの店員「あの鉄塔です!」

双眼鏡で探すと、遠くに謎の窓も入り口もない謎の鉄塔(高さ260尺=80mぐらい)がある。

双眼鏡越しに見てみると、なんと鉄塔の頂上に半獣怪人と怪人に囚われた美女がいる!

助けに行かないと!

出発前、ホテルの店員から、川で拾ったという「開かずの鍵」と書かれた鍵をもらう。

鉄塔到着。

到着したけど鉄塔に登る手段がない!気球で上がってみたけど半獣怪人が怒ってしまってダメ。

シドニーから、超強力磁石を持ってきて鉄塔にペタペタくっつけて足場にして登る。

なんだかんだで頂上で、半獣怪人を高電圧ケーブル(シドニーから持ってきた)で感電させる。

無事、美人救出。

とりあえず頂上から降りる前に、興味本位で鉄塔の内部に入ってみると、謎の仮面を付けられた大量のミイラと、「開かずの扉」と書かれた謎の扉がある。

ホテルの店員からもらった鍵で試したら、扉が開いた!

扉の先には、梵字で書かれた謎の銅板があったのでとりあえず持って帰る。

日本に帰る船の上の主人公「あの鉄塔、怪人、ミイラ、銅板はいったいなんだったんだろうか?

 

 

 

・・・

 

いやマジでなんだったんすか!?

と言いたくなる終わり方でしたが、それはそれ。

私がよく知らないだけで、冒険小説というものはそういうものなのかもしれない。「オチ」を期待してしまうのは近代人の甘えなのかもしれません。

なんというか雰囲気としては、まさに「ドラゴンクエスト」という感じで、小難しい裏をかくような展開や感情表現などはほとんどなく、歯切れが良くてハキハキとした文章で、読んでいてとても面白かったです。

もし続編がどこかに存在するのであればとても読みたい!!!誰かご存じでしたら教えてください。

 

・・・

 

さて、結論として、なぜIslaya brevicylindricaの和名が怪人鉄塔となったか、なのですが、とりあえず小説中にサボテンの話題は出てこないので、とりあえず鉄塔の姿・形がサボテンに近いとかなのかもしれません。

ということで昭和10年発行の押川春浪『冒険小説 怪人鉄塔』の挿絵(著作権の関係で掲載できません)にみると、その鉄塔の姿・形は、



映画「天空の城ラピュタ」の、前半の山場の、シータがムスカに捕まって、城にある塔の上で、ロボット兵に「離してー!」っていうと、何故かロボット兵は優しく離してくれて、ロボット兵はドカーンと上からミサイル撃ち込まれてなんだかちょっと切なくて、なんだかんだでシータはパズーに助けられる、シーンにあるレンガ造りっぽい”


 

とほぼイコールにみえます。

 

ただ、私が小説本文(下記)を読むかぎり、あんまりラピュタの塔には思えないのです。

世界廣しと雖も、あの塔ほど不思議な物はありません。何時の時代に何人が造った物とも分らず、あの海岸を取巻いて居る絶壁の丘陵と森林の間に突立って、地面から高きこと二百六十尺此處から見ると左程でもありませんが、側へ行って見ると恐ろしい程巨大く、全面鐵で造られて居るのですが恰も魔界の大煙筒が平に突出た様で、何處を檢べても一個の入口も無ければ、下から上まで一個の窓もなく、随って昔から誰も上へ登つて見た者はなく、如何に工夫しても中へ入つて見る事などは迚も出来ぬのです。實に不思議な鐵塔と申さねばなりますまい。

とのことですから、やはりちょっと上記挿絵(ラピュタの城の塔)とは違うような気がします。鉄塔という表現ですし。

ということで私が想像した怪人鉄塔の姿は

こんな感じ。塔の上にいるのが、半獣怪人と美女。

 

ということで、塔の姿・形もイスラヤ属と全く似ていないので関係なし!たぶん!

 

ということで、私の結論!

和名をつけた人が押川春浪のファン!たぶん!

以上です!

 

うーん、こういう魅力的な和名が、種の統合に伴って忘れ去られていくの寂しいですね。。。

 

・・・

ということで、今は無きイスラヤ属の育て方ですが、

海岸近くのほとんど雨の降らない砂漠地帯で海霧(ガルーア=Garúa)により水分を摂取して生きているとのことですので、他のサボテンよりも乾燥気味に、過湿に気をつけて育てましょう。自生地的にもコピアポアと同じような栽培でいいかと思います。

栽培の癖が強めと言われることもありますが、日本で種から生まれたものはそこまででもないといううわさも聞いたこともあります。ただまぁ接ぎ木で育てるのが安全かもです。

成長はゆっくりです。

 

我が家の実生。ラベルはイスラヤ属です!

なんとか頑張って生きていってほしいです。

 

参考文献:

『なるほど、ネオポルテリア』
旧イスラヤ属のサボテンたち  皆さま こんにちは  九州、四国では早くも梅雨入りしたそうで、今週はすっきりしない天気が続きそうです。  久し振りの…
ブレビシリンドリカ
ブレビシリンドリカの栽培記録と写真

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